二重給電誘導発電機(DFIG)システムは、変動する風速に対し、電動機の最大発電効率が得られるよう回転子電流を制御する、パワーエレクトロニクスインターフェイスとして、ポピュラーなシステムです。DFIGシステム上で、パワーエレクトロニクスは、回転子電力(典型的には風力発電システム出力全体の25%以下)を制御し、電動機の速度制御による利点として、コスト及び電力損失の低減を提供します。この事例では、PLECSに実装されている全ての物理ドメイン(電気、熱、磁気、機械)を用いて、系統連係風力発電システムをモデリングします。風力発電システムには、風車ブレード、ハブ、シャフトの機械モデル、熱損失を考慮した、BTB(Back-to-Back)方式の電力変換器(インバーター)、磁気回路による3相変圧器、および伝送線路と電力系統が含まれています。
電源回路
電源回路は、回転子巻線がスリップリングを介してBTB方式の変換器へ接続し、固定子が変圧器を介した系統電源に接続する、DFIG(Doubly-Fed Induction Generator)によって構成されています。系統側の電力変換器(インバーター)は、発電した電力を、20kmのケーブルを介して中電圧電力系統(10kV)に送電する、変圧器の3次巻線に接続されています。伝送線路(送電線)は、分散定数線路によってモデリングされています。
機械ドライブトレイン
電動機の回転子、ギアボックス、ハブと、プロペラのブレードは、風力タービンの機械部品の一部として、統合してモデリングされています。全ての部品が弾性的に、連成して動作するため、システムに共振状態を発生させます。風車ブレードに与えられる風力トルクは、風速とシャフトの回転速度(ギアボックスの高速側に変換)に対応して変化するルックアップテーブル値を使用して定義されます。
磁気変圧器回路
3相巻線変圧器は、基本的なPLECSの磁気回路コンポーネントを使用してモデリングされています。磁気変圧器回路は、従来の電気回路コンポーネントを使用した変圧器モデルと比べて、 鉄心(コア)の物理的構造を直感的に理解しやすく、コアレッグの飽和やヒステリシス特性といった、複雑な非線形条件をモデリングすることが可能になります。
制御ロジック
BTB電力変換器(インバーター)は、電動機側と系統側で分離して構成されており、それぞれDCリンクキャパシタに接続されています。電動機側の変換器(インバーター)は、DFIGシステムのトルクを制御しており、2重構造の回転速度制御ループのアウター速度制御ループは、インナー電流制御ループが参照する制御信号を出力しています。電流制御は固定子磁束に対応した、回転座標系上で実行されます。さらに、電動機側の変換器(インバーター)は、DFIGシステムの無効電力を制御しています。系統側の変換器(インバーター)は、電動機側変換器の有効電力を変換し、DCリンク電圧を950Vに維持した状態で、LCLフィルタを介して、系統へ電力を送電します。PI制御器には、アクティブダンピング、フィードフォワード、Anti-Windup方式が採用されており、電力変換器(インバーター)は、空間ベクトルPWM(SVPWM)変調によって駆動しています。
熱損失
電力変換器(インバーター)は、「平均化モデル」または「熱損失用スイッチングモデル」のどちらかを選択して、シミュレーションを実行可能です。平均化モデルは、電力変換器(インバーター)の高調波成分やスイッチング周波数が考慮されず、モデリングが簡略化されているため計算速度が向上します。熱損失用スイッチングモデルは、変換器内の各IGBTで、導通/スイッチング損失を算出し、ヒートシンク容量等の冷却システムを検証することが可能です。
シミュレーション
シミュレーションは、DFIGシステムが同期速度で動作している状態からスタートします。シミュレーション開始3秒後で、ピーク出力電力が 2 MWとなるように、回転速度指令値が、157 rad/s から 175 rad/s (-10% slip rate) へ変化します。直後に、システムは均衡した新しい安定状態に入り、シミュレーション開始12秒後で、システム障害として、10 kVの電力系統に電圧降下が発生します。このシステム障害は、系統連系要件(2007年ドイツ)で最悪のケースとして定義されるボーダーラインの条件としてモデリングされています。このシステム障害によって、電気・機械システムに高周波振動が発生していることが確認できます。系統電圧が回復すると、システムも安定状態へ回復します。
ダウンロード
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この事例のPLECS Blockset/PLECS Standalone用ファイルは、デモモデルとして格納されています。